鎌倉彫の特徴とは? 木彫りなの? 漆なの?

「鎌倉彫の特徴って何ですか?」
という問いをお客様からよくいただきます。
こういった直球の質問って、なかなかに答えるのが難しいなぁと常々思っているのですが、、、
端的に言ってしまえば、
① 手彫りの彫刻が施されていて

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② 下地から漆を塗り重ねた漆器

という言葉に集約されます。
これが実際のお客様が求める答えなのかどうか、いま一つ実感できないものの、簡単に言えばこういうことです。

伝統的工芸品のジャンルからその特徴を考える

そもそも、経済産業省が指定する伝統的工芸品にはいくつかのジャンルがあります。
例えば陶磁器、織物、木工品などなど。漆器もそのジャンルの一つで鎌倉彫は漆器のカテゴリに含まれます。

  詳しく知りたい方はこちら → 伝統的工芸品産業振興協会 青山スクエアHP

漆器で代表的なものと言えば青森県の津軽塗や石川県の輪島塗などが有名ですが、全国に伝統的工芸品として指定されている漆器は、全部で23種類もあります。その中で「彫」と名の付く漆器、つまり木地に彫刻を施して漆を塗り重ねる工芸品は、鎌倉彫のほかには実は新潟県の「村上木彫堆朱」だけなのです。

並び称される漆器 村上木彫堆朱

村上堆朱は技法やそのルーツなども鎌倉彫と非常によく似ており、見分けがつきにくいようなものもあります。強いて違いを挙げるとすれば、鎌倉彫は仕上げにマコモなどの粉を蒔くことが多く、仕上げの色味が堆朱ほど赤くないという点でしょうか。

murakamituisyu.jpg村上木彫堆朱 鎌倉彫と微妙に異なる赤さがまた魅力です
もっともこれも定義付けの問題に過ぎないのであって、中にはほぼ堆朱に近いような鎌倉彫もあり、実際の技法は様々です。

技術の極み!香川漆器

また、香川漆器には技法にいくつかの種類があり、そのうちの一つである象谷塗りは木地に加工を施したり漆塗りの仕上げにマコモを用いたりと、共通点を持つその他の漆器もあります。
ちなみに香川漆器には「彫漆」と呼ばれる技法もありますが、これは何十回(もしくは何百回)も塗り重ねた漆の層を彫刻するという方法で、木彫りとはさらに異なるものです。

kagawa_tuisyu.jpg香川漆器 堆朱の香合 信じられないような細かさで漆の塗膜に彫刻しています

 

木工品とは違う?

ちなみに木工品のジャンルで言えば、岐阜県の一位一刀彫や富山県の井波彫刻、広島県の宮島細工などもあるのですが、これらは漆塗りではありませんのでそもそも鎌倉彫とはジャンルが違うのです。ですが、どちらも木彫りであることから、似たようなものだと混同されるお客様も多いのです。
とは言え、木目も美しく鎌倉彫とはまた一味違う彫刻技術には、目を見張るものがありますね。

ittobori.jpg一位一刀彫 盃を仰ぐネズミが可愛い

ルーツは鎌倉? 日光彫について

 徳川幕府三代将軍徳川家光が、当時の日光東照宮を現在の荘厳な社殿に造り替える際に、全国から宮大工、彫師、漆工、金工、絵師など名匠たちを集めました。
(彫師は約40万人集められたといいます)
これらの彫師たちが仕事の余暇に彫ったものが日光彫の起源といわれています。

鎌倉彫も鎌倉時代の社寺建築に伴って全国から集められた彫師が起源となっていますので、ルーツはとても似ています。実際に、鎌倉にいた多数の彫師たちがこの時代に日光に流れていったと言われていますので、鎌倉彫が日光彫のルーツとなっていると言っても過言ではないかも知れませんね。
日光彫はひっかき刀という、鎌倉彫ではあまり使わない道具を使うことで有名で、これが鎌倉彫との違いを生み出している技法と言っても良いでしょう。現在の日光彫は必ずしも漆塗りで仕上げている訳ではないようなので、その点も漆器に分類される鎌倉彫とはやや違います。

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おわりに

 さて、さまざまな工芸品を引き合いに出して、鎌倉彫の特徴を説明してみました。
こういった細かい分類や特徴、はたまた蘊蓄を知ることも、工芸品の深い理解には欠かせないでしょう。
ですが、作り手としてはやはり、細かい彫刻に感動してもらったり、独特の漆の質感にうっとりしてもらったり、長く愛用してその丈夫さに感心してもらったり、経年変化を楽しんでもらったり、、、

 そんなところから「鎌倉彫っていいなぁ」とお客様に思っていただけるのが一番の喜びなのです。
バックグラウンドとしての商品情報を詳しく知ることも大切なのですが、それだけでは工芸品の本当の良さを理解したことにはなりません!
モノそのものとじっくり向き合って、風合いや手に取った感触から職人の技を感じてもらえたら嬉しいです♪

鎌倉彫の魅力については、山水堂の商品ページよりどうぞ!

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