つまり、蒔絵のきれいな輪島塗や独特の模様が特徴的な津軽塗などと同じジャンルの工芸品ということになります。
漆塗りの器であるがゆえに、扱いが難しそうだと敬遠されるお客様の声もよく耳にします。確かに日常で漆塗りの器に馴染みのない方にとっては、どのようなシーンで使って良いものかと戸惑ってしまう事もあるかも知れません。
そこで今回は、そもそも漆とはどういうものなのか、ちょっとお話をしてみたいと思います。
漆の特徴って??
漆は日本ではおよそ12000年前の縄文時代から、塗料として使われてきたと言われています。ウルシの木の幹に傷をつけ、そこから垂れ出てくる樹液を採取したものが原料としての漆です。つまり植物由来の天然塗料というわけです。この漆を日本では古来から、器はもとより鎧・刀の鞘・馬の鞍、さらには寺社など木造建築の腐食防止や船の浸水防止など、あらゆる目的に塗料として利用してきました。10年生育したウルシの木1本から採取できる量は約250g、お茶椀1杯分と言われています。とても貴重なものだということがお分かりいただけると思います。それゆえ昔から、高価な木工製品には漆塗りが施されるのが一般的でした。
(小学校の教科書に出てくる『木竜うるし』という昔話でも、漆採りの兄弟が川底に沈んだ漆を発見して大金を手にするというエピソードがありますね)
漆を採取されたあとの幹
漆の大きな特徴として、その固まり方がほかの塗料と大きく違うという点があります。一般的な塗料は水分が蒸発することで乾燥し固まります。これとは反対に、漆はその主成分であるのウルシオールが酵素の働きによって水分や酸素でつながり、固まって強い膜を作り出します。そのため湿度がないと固まらないという珍しい性質を持っています。
また、硬化する前の漆は大変かぶれやすく、林の中でウルシの木に触れただけでかぶれてしまったという経験を持つ方もいるほどです。このかぶれの原因となるウルシオールは、硬化してしまうと性質が変化しかぶれることもなくなります。酸やアルカリなどにも強く、表面を堅牢に保持する働きをもっています。
古来、武士の鎧や刀の鞘にも漆塗りが施されていたのは、この堅牢さゆえなのでしょう。
漆の種類と製造方法
漆の種類と製造方法塗料としての漆には、大まかに言って3種類の製造法があります。1)採取された漆をろ過しただけのもの
これを生漆(きうるし)と呼びます。主に下地や木目を生かした摺り漆と呼ばれる技法に使われます。
2)生漆を撹拌して水分を除き精製した状態のもの
これを透き漆と呼びます。透き漆は透明度が高いので、顔料を混ぜることで様々な色の漆を作ることが出来ます。よく目にする朱塗りも上塗りにこの漆を使用します。
3)精製の過程で鉄粉を混ぜ合わせたもの
これを黒漆と呼びます。鉄粉による化学反応で黒色に変化した漆をろ過したものです。中塗りから上塗りまで幅広く使われます。「漆黒の~」という言葉もあるように、漆の質感を代表するような色合いをもっています。
漆は元来が樹液ですから木材を原料とした器とはとても相性が良く、木地への浸透力があります。また、重ねて塗ることでさらに固く丈夫になります。鎌倉彫の漆塗の工程では、下地から上塗りに至るまでのそれぞれの工程で、上記の3種類の漆がすべて使用されています。
漆 驚きのエピソード!
漆塗りの堅牢さを物語るエピソードとして、縄文時代に作られた漆塗の櫛が出土した話があります。この櫛は福井県立若狭歴史博物館に所蔵されていますが、約6100年前の年代測定結果が得られているそうです。それだけの長い時間土に埋もれていたにもかかわらず櫛の歯の形をとどめていた事実に、いかに漆が丈夫かということがお分かりになると思います。それだけでなく、縄文人も漆塗りの美しさに魅せられて日常のおしゃれに櫛を愛用していたと思うと、何ともロマンを感じてしまうお話です。
おわりに
「きれいな表面に傷をつけてしまってはいけない」と躊躇してしまう気持ちもあるかも知れませんが、本来器などの日用品を丈夫で長持ちさせるために漆塗りを施すわけですから、ぜひとも普段の生活に漆器を取り入れていただき、その堅牢さを実感していただけることが作り手の願いです。鎌倉彫は表面に彫刻を施している分、傷などが目立ちにくいというメリットもあります。縄文人に思いを馳せながら、ロマンを感じるひと時を鎌倉彫とともに過ごしてみてはいかがでしょう。
鎌倉彫の商品、気になった方はぜひともご覧ください。